2026年のノーベル化学賞に、東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあい・けんそう)氏と、フランス・パリ南(パリ=シュド)大学のアンリ・B・カガン氏が選ばれました。授賞理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見」です。
「不斉(ふせい)」「自己触媒」と聞いてもピンとこない人のために、右手と左手のたとえと図解で、何がすごいのかをまとめました。日本人受賞者の一覧を分野別に絞り込めるフィルターも付けています。
- 硤合憲三氏(東京理科大学名誉教授)とカガン氏(仏)が2026年ノーベル化学賞を共同受賞
- 硤合氏は、できた分子が自分と同じ「向き」の分子を増やす「不斉自己触媒反応(硤合反応)」を発見
- 日本人のノーベル賞は31人目、化学賞は10人目で、2025年の北川進氏に続き2年連続
ノーベル化学賞2026の受賞者と授賞理由
スウェーデン王立科学アカデミーは日本時間10月7日夜、2026年のノーベル化学賞を発表しました。賞金は総額1,200万スウェーデンクローナ(約1億9,000万円と報道)で、2人で分け合います。授賞式は例年どおり12月10日にストックホルムで行われる予定です。
| 受賞者 | 所属 | 主な業績 |
|---|---|---|
| 硤合 憲三 氏(1950年生まれ) | 東京理科大学 名誉教授 | 不斉自己触媒反応(硤合反応)の発見 |
| アンリ・B・カガン 氏 | パリ南(パリ=シュド)大学 名誉教授(フランス) | 不斉合成の「非線形効果」の発見(1986年) |
ノーベル委員会は、2人の研究が「1世紀以上前からの化学の謎」の解明につながったと説明しています。その謎とは、生き物の体をつくる分子が、なぜ「右手型」か「左手型」の一方にそろっているのか、という問題です。
「不斉」とは?右手と左手のたとえ
右手と左手は、形も指の数も同じなのに、重ねてもぴったり一致しません。鏡に映すと同じ形になる、この関係を「鏡像(きょうぞう)」と呼びます。分子の中にも、原子のつながり方は同じなのに右手と左手のような関係にあるペア(鏡像異性体)があり、この性質をキラリティー(不斉)といいます。
右手型と左手型は、においや味、薬としての効き方が違うことがあります。そのため医薬品や香料をつくるときは、片方だけを選んでつくる技術(不斉合成)がとても重要です。ところが、ふつうに化学反応を起こすと右手型と左手型が半分ずつ(ラセミ体)できてしまいます。
硤合反応のしくみを図解
硤合氏が見つけたのは、できあがった分子そのものが「触媒」になり、自分と同じ向きの分子をどんどん作らせる反応です。最初にほんのわずかでも右手型が多ければ、その差が反応のたびに雪だるま式に広がっていきます。
どれくらい増幅するの?論文の数字
硤合氏らの総説(Bulletin of the Chemical Society of Japan, 2011年)によると、反応はピリミジン-5-カルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛の組み合わせで、生成物の「ピリミジルアルカノール」が自分自身をつくる触媒として働きます。
| 報告 | 最初の偏り(ee) | 結果 |
|---|---|---|
| 1995年の報告 | 2%ee | 4回のくり返しで88%ee |
| その後の報告 | 約0.00005%ee | わずか3回の連続反応で99.5%ee超 |
カガン氏の「非線形効果」とは
カガン氏は1986年、不斉合成に使う触媒の純度と、できる生成物の純度が単純な比例(直線)の関係にならないことを示しました。触媒の小さな偏りが、生成物では大きな偏りになることがある、という発見で「非線形効果」と呼ばれます。硤合氏の自己触媒は、この「偏りが増える」現象を反応のくり返しで極限まで高めた例といえます。
何の役に立つ?生命の謎と薬づくり
- 生命の起源の謎:私たちの体のアミノ酸はほぼ左手型、糖は右手型にそろっています(ホモキラリティー)。ごくわずかな偏りが自然に大きくなる仕組みは、この謎を説明する有力な手がかりとされています。
- 医薬品・香料・新素材:片方の向きだけを効率よくつくる技術は、薬の効き目や安全性に直結します。
日本人ノーベル賞受賞者 早見フィルター
硤合氏で日本人(日本出身で外国籍の人を含む)の受賞者は31人になりました。分野を選ぶと一覧を絞り込めます。
このあとのノーベル賞の発表日程
化学賞のあとは、文学賞が10月8日(木)、平和賞が10月9日(金)、経済学賞が10月12日(月)に発表されます。文学賞の発表時刻や候補については、下の関連記事でまとめています。
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硤合憲三氏の読み方は?
「そあい けんそう」と読みます。東京理科大学の名誉教授で、有機化学が専門です。
ノーベル化学賞2026の受賞理由は?
「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見」です。硤合氏は不斉自己触媒反応(硤合反応)、カガン氏は非線形効果を発見しました。
日本人のノーベル賞は何人目?
日本出身で外国籍の人を含めて31人目です。化学賞に限ると10人目で、2025年の北川進氏に続いて2年連続の受賞です。
授賞式はいつ?
例年どおり12月10日にスウェーデン・ストックホルムで行われる予定です。
不斉自己触媒は何に役立つ?
生き物の分子がなぜ片方の向きにそろっているのかという生命の起源の謎を考える手がかりとされるほか、片方の向きだけをつくる技術は医薬品や香料の開発にも関わります。

