保育士試験の勉強がうまく進まないとき、原因の多くは「量が足りない」ことではありません。覚えるべきものの形を取り違えていることです。
この試験で問われているのは、ほとんどが対応関係です。誰が何を書いたか。どの施設がどの法律に基づくか。どの年に何が起きたか。文章として理解する対象ではなく、AとBを結びつけて保持する対象。だから、教科書を読み込む勉強法とは相性が悪い。
出題の本体は3つの対応関係
| 対応の型 | 具体例 | 主に出る科目 |
|---|---|---|
| 人物 × 著書・施設・キーワード | ペスタロッチ×『隠者の夕暮』×直観教授/石井亮一×滝乃川学園 | 教育原理、社会的養護、保育原理、社会福祉 |
| 施設・制度 × 根拠法・分類 | 児童養護施設×児童福祉法第7条×第一種社会福祉事業 | 社会的養護、子ども家庭福祉、社会福祉 |
| 年号 × 法令 × 内容 | 1994年×子どもの権利条約×日本の批准 | 全科目 |
| 用語 × 定義 | レジリエンス、パーマネンシー、アタッチメント | 保育の心理学、社会的養護 |
| 数値 × 基準 | 保育士配置基準、施設の設備基準 | 保育原理、子どもの保健 |
この5つのうち上3つで、筆記の相当部分が説明できます。覚える対象を「文章」ではなく「行」として持つ——これが出発点です。
なぜ読み返すだけでは入らないのか
テキストを読み返しているとき、脳は「見たことがある」という感覚を得ます。この感覚は再認と呼ばれ、実際に思い出す再生とは別のものです。読み返しを重ねると再認の感覚だけが強くなり、「わかっている」と感じるのに本番で出てこない状態が起きやすい、と一般に指摘されています。
保育士試験は五肢択一なので、一見すると再認で足りそうに見えます。ところが実際の選択肢は、正しい人物名と正しい業績を組み替えて作られています。「石井亮一——岡山孤児院」のような選択肢は、どちらの語も見覚えがあるので再認では判別できません。自分の側から正しい組み合わせを再生できて、初めて切れる。
判定の基準
覚えたかどうかは「読んで思い出せるか」ではなく、何も見ずに書けるかで判定します。人物名だけ見て業績が言えるか。業績だけ見て人物名が言えるか。両方向で言えて、ようやく試験で使える状態です。
表と語呂の使い分け
| 表が向いている | 語呂が向いている | |
|---|---|---|
| 対象 | 多対多の対応、比較が必要なもの | 順序、列挙、抜けを防ぎたいもの |
| 例 | 施設×根拠法×種別/里親4種類の比較 | 児童福祉法第7条の13施設/思想家の生年順 |
| 強み | 違いが目で見える。逆引きができる | 一気に引き出せる。試験中に紙の端に書き出せる |
| 弱み | 作るのに時間がかかる | 意味が入らない。中身を取り違えると全滅する |
表の作り方は3つだけ守る
- 列を固定する。人物なら「人物/著書/キーワード」。途中で列を増やさない
- 1行1対応にする。1つのセルに2つの情報を入れない
- 逆引きできる形にする。左列を隠しても右列を隠しても使えるように作る
引っかけポイント
語呂は中身が正確でなければ、覚えるほど危険になります。市販の語呂やSNSの語呂を使う前に、指している事実(人物と業績、施設と分類)が本当に合っているかを、条文や公的資料で1回だけ確認してください。1回確認すれば、あとは語呂を信じて回せます。
復習の設計:間隔を空けて、思い出す
反復の間隔:忘れかけたころに戻る
学習科学の分野では、同じ回数の学習でも一度にまとめてやるより、間隔を空けて分散させたほうが長期の保持に有利だとする報告が多く知られています(分散学習)。効果の大きさは対象や個人によって差があるとされますが、少なくとも「前日にまとめて詰める」より不利になりにくい方法です。
試験勉強に落とし込むと、次のような回し方になります。厳密な日数に意味があるわけではなく、間隔を少しずつ広げることが要点です。
| タイミング | やること | 所要 |
|---|---|---|
| 学習した当日 | 覚えた表を閉じて、白紙に書き出す | 5分 |
| 翌日 | 書けなかった行だけ再確認 | 3分 |
| 3日後 | 表全体を逆引きで1周 | 5分 |
| 1週間後 | 間違えた行だけ再テスト | 3分 |
| 2〜3週間後 | 表全体を1周 | 5分 |
| 直前1週間 | チェックリスト形式で総ざらい | 10分 |
忘れてから戻るほうがいい
「まだ覚えているうちに復習する」のは効率が悪い、と考えられています。少し忘れかけたタイミングで思い出すほうが、記憶が強く残るとされるためです。完璧に覚えている表を毎日見返す時間があるなら、その分を手薄な領域に回してください。
想起練習:読むのをやめて、思い出す
記憶研究では、学習した内容を思い出す作業そのものが記憶を強めるという現象が繰り返し報告されています(テスト効果、想起練習)。読み返しを増やすより、思い出す回数を増やすほうが定着に寄与しやすい、というのが一般的な整理です。
| やり方 | 具体的な手順 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 右列隠し | 表の右列を紙で隠し、左列を見て言う。次に左右を入れ替える | 人物、施設、年号すべて |
| 白紙書き出し | 何も見ずに、覚えた表を白紙に再現する | 週1回、範囲の総点検 |
| 逆引き | 「滝乃川学園を作ったのは?」の形で自分に問う | 人物・施設 |
| 一問一答 | 過去問の選択肢を1つずつ正誤判定する | 仕上げ期 |
| 説明 | 1つの用語を、見ないで30秒説明する | 定義系の用語 |
どれも共通しているのは「見ない時間」を作ることです。テキストを開いている時間より、閉じている時間のほうが記憶には効いている、と考えて組み立ててください。
選択肢問題への橋渡し
対応関係を覚えたら、最後に一手間かけます。過去問を解いたあと、誤りの選択肢について「どこが違うか」を一語で言う練習です。
- 「石井亮一——岡山孤児院」→ 施設が違う(滝乃川学園)
- 「児童憲章は1951年に制定された法律である」→ 法律ではない(宣言)
- 「助産施設は第一種社会福祉事業である」→ 第二種
一語で言えるなら、その対応関係は使える状態です。言えないなら、まだ再認どまり。この確認は1問10秒で終わります。
やらないほうがいいこと
| やりがちなこと | 何が問題か | 代わりに |
|---|---|---|
| ノートをきれいに清書する | 作業中は再生していない。時間対効果が低い | 汚くていいので白紙に書き出す |
| 色ペンでマーカーを引く | 引いた時点で覚えた気になりやすい | 引くかわりに右列を隠して言う |
| テキストを最初から読み返す | 再認は増えるが再生は増えにくい | 表の逆引きに切り替える |
| 得意な科目から手をつける | できる範囲を繰り返しても点は増えない | 白紙書き出しで抜けた行から手をつける |
| 直前に新しい教材を足す | 対応関係が二重になって混乱しやすい | 手持ちの表の抜けだけを埋める |
りわさんメモ
(ここに、りわさん自身が受験したときの実感・失敗・工夫を1〜3文で書き足してください。例:1回目はノートを作ることが勉強になっていた。2回目は表を1枚だけ作って、あとはひたすら白紙に書き出す形に変えた。)
まとめ
- 覚える対象は文章ではなく対応関係の行
- 表は比較と逆引き、語呂は順序と列挙。語呂の中身は必ず一次情報で1回確認する
- 復習は間隔を少しずつ広げる。忘れかけたころに戻る
- 読み返すより思い出す。判定基準は「何も見ずに書けるか」
- 誤答の選択肢は「どこが違うか」を一語で言えるようにする
出題の根拠になる指針や統計は、公的資料で確認してください。
よくある質問
語呂合わせは自分で作ったほうがいいですか?
自作のほうが覚えやすいという人は多いですが、必須ではありません。重要なのは語呂の出来ではなく、語呂が指している中身が正確かどうかです。既存の語呂を使う場合は、対応する事実を条文や公的資料で一度だけ確認してから使ってください。確認さえ済ませれば、あとは声に出して回すだけです。
復習の間隔は、記事にある日数どおりでないと効果がありませんか?
日数そのものに厳密な意味はありません。分散学習で重要とされているのは、間隔を空けることと、その間隔を少しずつ広げることです。生活のリズムに合わせて「当日・翌日・週末・翌々週」のように置き換えて構いません。効果の大きさには個人差があるとされるので、自分が思い出せる頻度に調整するのが現実的です。
暗記より過去問を解くほうが早いのではありませんか?
過去問は想起練習そのものなので有効ですが、対応関係が入っていない段階で解くと、答え合わせに時間がかかりすぎます。目安としては、表を1周してから過去問に入り、間違えた箇所を表に戻して補強する往復の形が扱いやすいです。過去問を解くこと自体が復習になるので、後半は過去問中心に切り替えて構いません。

