保育実習理論の移調問題は、手順どおりに数えれば必ず答えが出る計算問題です。音感も演奏経験も要りません。それなのに苦手にする人が多いのは、数え方のルールが2種類あって、それが頭の中で混ざるからです。この記事では移調の解き方を3ステップに分解し、音名(ハニホヘトイロ/CDEFGAB)と度数の文字表現だけで説明します。楽譜も鍵盤の絵も使いません。
準備:音名の対応を先に固める
| 日本音名 | ハ | ニ | ホ | ヘ | ト | イ | ロ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 英語音名 | C | D | E | F | G | A | B |
| イタリア音名 | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ |
日本音名はイ(=A)から始まる並びだと覚えると混乱しません。イ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・トが A・B・C・D・E・F・G の順に対応します。半音上げるときは頭に「嬰(えい)」、半音下げるときは「変(へん)」を付けます。嬰ハ=C♯、変ロ=B♭です。
隣り合う音の距離
移調で必ず必要になるのが、ミとファの間、シとドの間だけが半音だという事実です。それ以外の隣同士(ドとレ、レとミ、ファとソ、ソとラ、ラとシ)は全音、つまり半音2つ分あります。この2か所を忘れると、数がずれます。
| 隣り合う音 | 距離 |
|---|---|
| ハ→ニ(C→D)、ニ→ホ(D→E)、ヘ→ト(F→G)、ト→イ(G→A)、イ→ロ(A→B) | 全音(半音2つ) |
| ホ→ヘ(E→F)、ロ→ハ(B→C) | 半音(半音1つ) |
度数と半音数の対応表
移調の指示は「短3度上げる」「完全4度下げる」のように度数で与えられます。一方、実際に音を動かすときは半音数で数えます。この変換表が移調の心臓部です。
| 度数 | 半音数 | ハ(C)から上がると |
|---|---|---|
| 完全1度(同じ音) | 0 | ハ(C) |
| 短2度 | 1 | 変ニ(D♭) |
| 長2度 | 2 | ニ(D) |
| 短3度 | 3 | 変ホ(E♭) |
| 長3度 | 4 | ホ(E) |
| 完全4度 | 5 | ヘ(F) |
| 増4度/減5度 | 6 | 嬰ヘ(F♯)/変ト(G♭) |
| 完全5度 | 7 | ト(G) |
| 短6度 | 8 | 変イ(A♭) |
| 長6度 | 9 | イ(A) |
| 短7度 | 10 | 変ロ(B♭) |
| 長7度 | 11 | ロ(B) |
| 完全8度(1オクターブ) | 12 | ハ(C) |
覚え方のコツは、1度・4度・5度・8度には「完全」しかつかないこと、2度・3度・6度・7度には「長」と「短」があること。そして長と短は半音1つ違いで、短のほうが狭い。この2点だけ押さえれば、表は再現できます。
引っかけポイント
度数は元の音を1と数えます。ハからニは「2度」であって「1度」ではありません。一方、半音数は元の音を0として数えます。ハからニは半音2つ。同じ動きなのに「2度」と「半音2つ」で数字が偶然一致するため、ここで勘違いが固定されがちです。ハからホは「3度」ですが半音は4つ。ここで数字がずれることを一度確認しておいてください。
移調の3ステップ
ステップ1:元の調を判定する
調号(楽譜の左端の♯や♭の数)から調を決めます。長調と短調の判別は、曲の終わりの音(主音)で見分けるのが実務的です。
| 調号 | 長調 | 主音 | 平行短調 |
|---|---|---|---|
| なし | ハ長調(C) | ハ | イ短調(Am) |
| ♯1つ | ト長調(G) | ト | ホ短調(Em) |
| ♯2つ | ニ長調(D) | ニ | ロ短調(Bm) |
| ♯3つ | イ長調(A) | イ | 嬰ヘ短調(F♯m) |
| ♯4つ | ホ長調(E) | ホ | 嬰ハ短調(C♯m) |
| ♭1つ | ヘ長調(F) | ヘ | ニ短調(Dm) |
| ♭2つ | 変ロ長調(B♭) | 変ロ | ト短調(Gm) |
| ♭3つ | 変ホ長調(E♭) | 変ホ | ハ短調(Cm) |
| ♭4つ | 変イ長調(A♭) | 変イ | ヘ短調(Fm) |
調号そのものの並び順も覚えておくと、逆算できます。♯が付く順は ファ・ド・ソ・レ・ラ・ミ・シ(F・C・G・D・A・E・B)、♭が付く順はその逆で シ・ミ・ラ・レ・ソ・ド・ファ(B・E・A・D・G・C・F)です。♯系は「最後に付いた♯の音の半音上」が長調の主音、♭系は「最後から2番目に付いた♭の音」が長調の主音、という求め方もできます。ただし♭1つのときだけは「最後から2番目の♭」が存在しないので、ヘ長調と覚えてください。
ステップ2:移動する半音数を出す
問題文の「短3度上げる」「完全4度下げる」を、先の対応表で半音数に変換します。短3度なら3、完全4度なら5。方向(上げる/下げる)をここで必ずメモしてください。方向の読み違いは、移調問題で最も多い失点原因です。
ステップ3:すべての音を同じ半音数だけ平行移動する
主音も、メロディーの各音も、和音の根音も、例外なく同じ半音数だけ動かします。音程の関係は変わらないので、曲の形はそのまま保たれます。あとは移動後の主音から新しい調を決め、対応する調号を付ければ完成です。
ここが出る
試験では「移調後の調号は何か」「移調後に弾く鍵盤はどれか」という形で問われます。全部の音を移す必要はありません。主音1つを移せば調が決まり、調号も決まります。鍵盤位置を問う問題なら、選択肢に示された音のうち1〜2音を確かめれば絞れます。全音符を律儀に移し替えると時間が足りなくなります。
頻出パターン早見表
ハ長調を基準に、よく出る移動の結果をまとめます。移調の方向と度数がわかれば、この表から答えが直接読めます。
| 指示 | 半音数 | ハ長調から移ると | 調号 |
|---|---|---|---|
| 長2度上げる | +2 | ニ長調(D) | ♯2つ |
| 短3度上げる | +3 | 変ホ長調(E♭) | ♭3つ |
| 長3度上げる | +4 | ホ長調(E) | ♯4つ |
| 完全4度上げる | +5 | ヘ長調(F) | ♭1つ |
| 完全5度上げる | +7 | ト長調(G) | ♯1つ |
| 長2度下げる | −2 | 変ロ長調(B♭) | ♭2つ |
| 短3度下げる | −3 | イ長調(A) | ♯3つ |
| 長3度下げる | −4 | 変イ長調(A♭) | ♭4つ |
| 完全4度下げる | −5 | ト長調(G) | ♯1つ |
| 完全5度下げる | −7 | ヘ長調(F) | ♭1つ |
調号の増減で覚えるやり方
元の調がハ長調でない場合は、調号がいくつ増減するかで考えると速く解けます。次の関係は、どの調から出発しても成り立ちます。
| 移動 | 調号の変化 |
|---|---|
| 完全5度上げる/完全4度下げる | ♯が1つ増える(♭なら1つ減る) |
| 完全4度上げる/完全5度下げる | ♭が1つ増える(♯なら1つ減る) |
| 長2度上げる | ♯が2つ増える方向 |
| 長2度下げる | ♭が2つ増える方向 |
| 短3度上げる | ♭が3つ増える方向 |
| 短3度下げる | ♯が3つ増える方向 |
| 長3度上げる | ♯が4つ増える方向 |
| 長3度下げる | ♭が4つ増える方向 |
使い方の例。ヘ長調(♭1つ)を短3度上げるとどうなるか。表より「♭が3つ増える方向」なので、♭1つ+3で♭4つ。調号♭4つは変イ長調です。実際にヘ(F)を半音3つ上げると変イ(A♭)なので一致します。音を動かして確かめる方法と、調号を数える方法の2通りで検算できるのがこのやり方の強みです。
和音(コード)の移調
コードネームも同じ半音数だけ平行移動するだけです。種類(メジャー・マイナー・セブンス)はそのまま持ち越します。
| 元(ハ長調) | 長2度上げる | 短3度上げる | 完全4度上げる |
|---|---|---|---|
| C | D | E♭ | F |
| F | G | A♭ | B♭ |
| G7 | A7 | B♭7 | C7 |
| Am | Bm | Cm | Dm |
| Dm | Em | Fm | Gm |
実技で移調して弾く場合もこの作業です。伴奏の簡易化で調を変えるときは、コードネームを全部書き換えてから練習を始めてください。
失点しやすい5つのパターン
| ミス | 内容 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 方向の取り違え | 「下げる」を上げてしまう | 問題文の「上・下」に印をつけてから計算する |
| 度数と半音数の混同 | 短3度を「3半音」でなく「3つ隣の音」と解釈 | 必ず対応表で半音数に変換してから動かす |
| ミ‐ファ、シ‐ドの見落とし | 全音のつもりで半音しか動いていない | この2か所だけ半音、と唱えてから数える |
| 長短の取り違え | 短3度と長3度を混同(半音1つ差) | 短のほうが狭い(半音1つ少ない)と確認 |
| 調号の付け忘れ | 音は合っているが調号が違う | 移調後の主音から調号表を引き直す |
本番でやるべきことは1つだけです。問題を読んだら、まず余白に「+3」「−5」と半音数を書く。この一手間で、方向の取り違えと度数の混同という2大ミスが同時に消えます。
りわさんメモ
(ここに、りわさん自身が移調でつまずいた点と、抜け出したきっかけを1〜3文で書き足してください。例:度数のまま鍵盤を数えていて全部ずれていた。半音の数に直してから解くようにしたら、10問連続で正解できるようになった。)
よくある質問
短3度と長3度はどう見分けますか。
半音の数で見分けます。短3度は半音3つ、長3度は半音4つ。ハ(C)から短3度上は変ホ(E♭)、長3度上はホ(E)です。度数の数字が同じでも「長」がつくほうが半音1つ広い、と覚えてください。この関係は2度・6度・7度でも同じです。
移調したら短調は長調に変わりますか。
変わりません。移調は全部の音を同じ距離だけ平行移動する操作なので、音と音の関係は保たれます。ハ短調を長2度上げればニ短調になり、短調のままです。長調が短調になるのは「転調」や「同主調への変更」であって、移調ではありません。
短調の調号はどう考えればいいですか。
短調は平行長調と同じ調号を使います。平行調の関係は「長調の主音の短3度下が平行短調の主音」。ハ長調(調号なし)の平行短調はイ短調で、調号なしです。移調するときは長調に読み替えて調号を出し、最後に短調へ戻すと手数が減ります。
